むっとした独特な匂い、大音量のサイレン。
またニューヨークに帰ってきたんだ、と思った。
前回2年前にたった1ヶ月間滞在しただけなので、「帰ってきた」というのはものすごく大袈裟なんだけれど、でも何故か「帰ってきた」が自分の中で一番しっくり来る気がする。
3週間の滞在中に、また毎日ジャズクラブをはしごして、とにかく沢山のライブを聴いた。
様々なことを鮮明に覚えていた。2年振りの渡航だけれど、記憶はリセットされず、2年前からの延長線上を歩きに来たんだと実感する。
念願のCharles McPhersonが聴けてよかった。
アルバムで聴き続けたあの音を、目の前でマクファーソンが吹いている。ジャズの歴史が、今目の前で聴いている音楽から滲み出ているようで目頭が熱くなる。胸が一杯。
マクファーソンはもう今年で86歳で、今年の初めに体調を崩されていたらしいのだけど、元気な姿で吹かれていて少し安心した。
Bill Charlapのトリオ(David Wong、Kenny Washington)も最高。
小さな透き通った音が、実は鋭利でスピードが速くてぐいぐいswingする様子も、音楽がまるで詩的なのも美しい。MCでビルチャーラップが優しい声で朗読をし始めて、何かと思ったら「What Are You Doing the Rest of Your Life」の歌詞を全部朗読してくれていた。
あまりに美しいライブで、いまだに余韻に浸っている。
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毎週日曜日は教会に行ってみた。永遠にグルーヴしてるゴスペル、Jon Cowherdが弾いている豪華なworship。
レッスンを受けたり、ビッグバンドのリハーサルに参加したり、それからサルサバーにも行ってきた!
アルトサックスの友達と公園で練習していたら、通りすがりの70代の黒人男性が近づいてきて、彼もアルトを吹くのだというので、持ってきてもらって3人で演奏した。
目をぎょろっとさせて静かに喋る方で、DizzyとMonkを観に行ったことがあると言っていた。音楽はテクニックを見せびらかしたり、自分がクールだということを人に分からせるものではなく、心だよ、ブルースだよ。という事をたくさん話してくださった。
これがNY! It’s magic!
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「ニューヨークに演奏活動の拠点を置くならば、必ず世界で一番にならないといけない」と思っていたけど、それが全てではないかもしれないと、今回の滞在で思った。
もう少し気軽な気持ちで移り住んでもいいのかもしれない。
結局は「自分でどれだけ頑張れるか」が大切で、活動拠点はどこであっても、強い心が必要だと思う。
ニューヨークはピンキリあれど、素晴らしすぎるミュージシャンが山のようにいて、全体像が見えてこない。(でも確かに、明らかに別格な人たちがいる)
生活もぐるぐると目まぐるしく、常に背中を押されて走らされている、という感覚は確かにそうなのだと思う。
日本で涙をこぼしたら、小さな水紋ができそうだけれど、アメリカで涙をこぼしても、瞬時に荒波にさらわれてしまう気がする。
それでもニューヨークの街は活気があり、様々な人種が混在していて、そして少しも先の未来が見えないところは魅力的だと思う。
明日何が起こるか分からない。結果の予測できる人生ではない。それって面白い事だと思う。
今回の滞在で、聴きたかったミュージシャンにも、名前を知らなかったけど聴いてみたら素晴らしかったミュージシャンにもたくさん出会えて、毎日嬉しかった。街もだんだん好きになってきた。特にハーレムが好き。(夜はあまり出歩かなかったけれど)
またいつニューヨークに行けるか分からないけれど、許されるなら今度はもっと長く行きたい。
お世話になった皆さん、本当にありがとうございました。心から楽しい滞在になりました。
また会いに行きます。


