無事にアメリカから帰りました。
長い夢から覚めたようだと思う。この間まで会っていた人たちは皆、遠い海の反対側に住んでいるんだなぁ。
帰る前日に受けたAntonio Hartさんのレッスンが素敵だった。
あなたは誰なのか、という事を大事にしなさいと言われた。
アイデンティティを大事にしなさいと言われた。
同じGの音でも、赤い音もあれば青い音もある。蕎麦のような音もあればうどんのような音もある。
あなたはSonny Stittにはなれない、Jackie McLeanにもなれない、あなたはあなた自身だ。
他人に何を言われても、あなた自身を信じなさい。また、音楽は人生であり、人生は音楽である。
何かに感動する事、心動かされることは、すなわちあなたの人生であり、音楽である。
日本に帰ってきて、食事の味の、湿気の、草花の造形、匂いの繊細さに感動している。
アメリカは全てが大味だったと思う。街も食事も生活も。
人々の喋り声も、クラクションやサイレンも、街の匂いも、駅で演奏する人も、金銭を募る人も、食事の量も味付けも、人の優しさも、全て大胆だった。
街の中に文化としてジャズや音楽があるのを感じた。
公園や路上で演奏する人たちは皆上手く、ライブのリスナーの手拍子は、ボトムが深くグルーヴしている。
セッションにはびっくりする程上手い人がふらりとやって来て、ステージでは世界のトップレベルが演奏を繰り広げている。
NYのサックス奏者は皆、音が太く振動していて、スピードがありクリアなサウンドをしている。
客席では深くゆったりとしたグルーヴに聴こえるドラムは、実際に一緒に演奏してみるととても素早かったり。
実際にFast Tempoの設定は日本よりNYの方が速いと思う。そして四分音符がとにかくプッシュされるので、結果的にもの凄く速く感じる。
皆、とにかくずっとスウィングすることを心掛けている。どんなシチュエーションでも、スウィングする事を見失わないでいる。
NYにはバップをやる人もいれば、最先端の音楽をやる人もいる。
バップを極めている人のバップは本当に美しい。勿論その人の音楽として、真似事ではなく、そこにある。
バップを継承することが広く許されている、最先端の音楽もまた、広く許されている街だと感じた。
NYで音楽家として生活するのは大変だと思う。
もし生活していくならば、私はImmanuel Wilkinsと同じ土俵に立たなければいけない。
アルトサックス吹きなんてとにかく沢山いて、皆技術レベルがもの凄く高い。
勿論音楽は勝ち負けではないけれど、そういう中で生きていく覚悟をしなければいけない。
長く住んだからといって、成功するという保証は一切ない。
かなり厳しい世界だけれど、でもNYには本物のジャズがあり、それを大いに肌身で感じる事ができる。
NYが好きかと聞かれると、正直よく分からないと思う。
たった1ヶ月いたくらいでは、そんな事は答えが出ないと思う。とにかく環境の違いに驚く事が多かった。
NYにいるミュージシャンは、音楽が勉強したくて来る人もいるだろうし、NYの街が好きで来る人もいるだろうし、自分の国よりNYがマッチするから来る人もいる。色んな人がいると思う。
また音楽の話になるけれども、
Dick Oattsさんが、演奏中に自分が目立とうとしようとすることはない。仲間をリスペクトして仲間を引き立たせることに気を配っている、という話をしてくれた事もまた印象的だった事の一つ。
さて、今回の旅ではたくさんの方にお世話になりました。
皆さんのおかげで旅がとても充実した素晴らしいものになりました。
住む場所を提供してくださった皆さん、
渡米前にたくさん情報をくださった皆さん、
そしてNYでお世話になった皆さん、
本当にありがとうございます。
どんな形になるかは分かりませんが、またNYには戻りたいと強く思います。